円形脱毛症には様々な治療法があります。
その中でも主だった治療法の効果を日本皮膚科学会がガイドラインで評価をしています。
毛髪疾患の診療に詳しい皮膚科医が中心になってまとめたものです。
皮膚科学会が勧める治療法(今のところ2017年版が最新。)
治療のおすすめ度は5段階に分かれている。
A:行うよう強く勧める(強くおすすめ)
B:行うよう勧める (おすすめ)
C1:行ってもよい (やってもいい)
C2:行わないほうがよい(やらないほうがいい)
D:行うべきではない(やっちゃだめ)
| 治療法 | おすすめ度 | |
| ステロイド局所注射療法 | おすすめ 子供には原則やらない | B* |
| 局所免疫療法 | おすすめ | B |
| ステロイド外用薬 | おすすめ | B |
| ステロイド内服薬 | やってもいい 子供には原則やらない | C1* |
| 静脈注射によるステロイドパルス療法 | やってもいい 子供には原則やらない | C1* |
| 抗ヒスタミン薬の内服薬 | やってもいい | C1 |
| セファランチン内服薬 | やってもいい | C1 |
| グリチルリチン,グリシン,メチオニン配合錠の内服薬 | やってもいい | C1 |
| カルプロニウム塩化物の外用薬 | やってもいい | C1 |
| ミノキシジル外用薬 | やってもいい | C1 |
| 冷却療法 | やってもいい | C1 |
| 紫外線療法 | やってもいい 子供には原則やらない | C1* |
| 直線偏光近赤外線照射療法 | やってもいい | C1 |
| レーザー治療,PDT | やらない方がいい | C2 |
| シクロスポリン A 内服療法 | やらない方がいい | C2 |
| 分子標的薬の全身投与 | やらない方がいい | C2 |
| 漢方薬療法 | やらない方がいい | C2 |
| 抗うつ薬,抗不安薬の内服 | やらない方がいい | C2 |
| タクロリムス外用薬 | やらない方がいい | C2 |
| プロスタグランジン製剤の外用 | やらない方がいい | C2 |
| ビタミン D 外用薬 | やらない方がいい | C2 |
| レチノイド外用薬 | やらない方がいい | C2 |
| 催眠療法 | やらない方がいい | C2 |
| 心理療法 | やらない方がいい | C2 |
| 星状神経節ブロック療法 | やらない方がいい | C2 |
| Platelet rich plasma 療法 | やらない方がいい | C2 |
| アロマテラピー | やらない方がいい | C2 |
| 鍼灸治療 | やらない方がいい | C2 |
| かつらの使用 | おすすめ | B |
| 治療せずに経過観察のみ行う | やってもいい | C1 |

作成されたのが2017年なので、オルミエントやリットフーロはまだ発売されていない。
あのころは、分子標的薬は十分なデータがないので、まだ使わない方がいいという見解だった。
だいぶ臨床例が増えたし、治療法も変わってきたので、そろそろ新しいガイドラインがだされると思います。
治療法のランクづけの意味
質の高い論文が高い効果を認めていればいるほど、ランクは高くなる。いままでの治療実績や副作用なども加味して、ランクが決められる。
誤解しやすいのがC2の「やらないほうがよい」というランク。
- 治療件数はけっこうあるけど、信憑性の高い論文がなく効果がはっきりしない、あるいは効果が乏しいと思われるもの。
- まだ治療件数が少なく、客観的な評価が難しいため、今のところはやめておいたほうが無難と思われるもの。
2のケースの場合、新しいガイドラインではランクが変わっている可能性もある。
勧められているのは4つの治療法。
ガイドラインでは「強く勧める」(A)という治療法はないが、「勧める」(B)という治療法は4つある。
- ステロイド局所注射療法 (子供には原則やらない)
- 局所免疫療法
- ステロイド外用薬
- かつら

治療法として、かつら(ウイッグ)がおすすめの上位に入っているのは意外でした。
「治療しない」というのも十分ありえる選択肢のひとつに入っています。
皮膚科学会がおすすめしている4つの治療法について、順に解説していきます。
ステロイド局所注射法
推奨されているのは、脱毛部が頭髪全体の25%以下の場合です。
ケナコルトA(一般名トリアムシノロンアセトニド)というステロイドを薄めたものを、脱毛部に皮下注射していきます。
投与間隔は1ヶ月に1回くらいです。中止する時期は患者さんの病態によって様々のようです。
注射後には皮膚の萎縮をふせぐために、患部をよく揉んでください。
注射の際、感じる痛みは個人差があるようですが、治療後にロキソニンなどの鎮痛剤が処方されることがあります。
通常小児には行われません。
治療法としての歴史は古く、論文はいくつかありますが、大規模で公平性の高い研究は今のところは発表されていません。今までの治療実績も加味しての「おすすめ」の治療法と思われます。

頭の皮膚にステロイドを注射!痛そうですが痛みには個人差があるようです。
過剰な免疫反応をおさえて発毛をうながす治療法です。
局所免疫療法
脱毛部に、アレルギー反応をおこさせる物質(SADBEまたはDPCP)を塗ります。
1週間ほどたつと、赤みやかゆみがでてきます。その後、濃度を落として1〜2週間ごとに塗ります。
軽い痒みが数日間続く状態がベストです。濃度は診察されるたびに様子を見て調節されます。
発毛がみられても3〜4週に1度は治療を続けます。
洗髪は薬品を塗ってから10〜12時間後にしてください。
治療の性質上、アトピー性皮膚炎もある患者さんは、症状が悪化する可能性もあります。
有害事象として、接触皮膚炎、蕁麻疹、リンパ節膨張、頭痛、倦怠感、色素沈着、色素脱落などがあります。
かゆみがひどくなりすぎた場合は、いったん治療を中止し、ステロイドの内服薬や外用薬が処方されることもあります。
経験豊富で、対応に十分慣れている医師にかかることをおすすめします。
治療に使う物質は医薬品ではないため、自費診療になります。

かぶれさせて発毛を促す治療法!
一説には毛包を攻撃していたリンパ球がかぶれの方に気を取られて?そちらに集まってくるからともいわれている。
ステロイド外用薬
1つ脱毛班または多数の脱毛班でも融合していないタイプの円形脱毛症に推奨されています。
脱毛部にステロイド外用薬を1日1〜2回塗る方法です。脱毛部周辺や痒みのある部分にあわせて塗ってもOK。
デルモベートスカルプローションやワンランク弱いアンテベートローションを使われることが多いようです。
副作用で多いのはニキビや毛嚢炎などの皮膚症状です(これはしばしばあります)。このような症状が出た場合は抗生剤や抗真菌剤のローションが追加されます。
外用薬なので内科的な副作用が出ることはごくまれです(私はまだ遭遇したことはないです)。

頭の皮膚にステロイドを塗る。一番安価で、痛みもなく手軽な治療法。
ステロイドは過剰な免疫反応を抑え、リンパ球が毛包組織を攻撃するのを抑える。それにもともと副作用に「多毛」がある!
タイミングもあるかもしれませんが、患者さんによってはすごく効いた!という方もいます。
かつら(ウイッグ)‥に関して個人的に思うこと。
患者さんと接していて個人的に思うことですが、脱毛症には他の病気と違う特徴があると思っています。脱毛そのものよりも精神的なダメージの方が大きい。脱毛は言ってみれば痛みもなく、命に直接関わる病気ではありません。ただ、本人の心の傷が周りが思うよりずっと大きくて、それが生活の質(QOL)を大きく落とすことがある。

無神経な奴もけっこういるし!
脱毛症は大きく分ければ、病気というより美容の領域に入るような気がします。「見た目」の領域という意味では。むしろそれでダメージをうける心の方が問題になっていて、その意味でかつらも有効な治療ということなのだと思います。明るく生きる、ということが何よりも大事なことですから。

なんか、知ったような口聞いてすみません。
脱毛症に限らず、いろいろな境遇の患者さんと話しているうちに、そう思うようになりました。
皮膚科学会の検討では、「かつらがQOLを上げるという明確なエビデンスはない」とされていますが、いや、普通に考えて上がるだろ、と思います。
かつらが治療法?と最初は違和感でしたが、QOLを上げるのも治療の一部、ということなのですね。
うちの患者さんをみる限りですが、かつらや帽子を上手に使われていて、むしろおしゃれで元気な人、というイメージの方が多いです。
「脱毛症の患者さんには薬局でいろいろ聞かないで下さい」
というのは近所で脱毛症治療をされている医院さんからの要請です。それは患者さんの立場からしたらそうでしょう。薬局で根掘り葉掘り聞かれたくないと思います。薬剤師には患者さんから情報収集して薬歴を書く義務があるので難しいですが、私はこちらからは症状については聞きません!(厚生労働省の人が目をつけませんよーに(^▽^;))。
それでも、本当に自然なウイッグなので、アトピーだけだと思って、症状を聞いてしまうことがあります。円形脱毛症とアトピー皮膚炎を併発している患者さんは結構多く、薬も似ていたりするのです。
アトピーの症状を聞いているときに、実は脱毛症の治療もしている‥と聞いて本当にびっくりすることもあります。
ウイッグについてはうちの薬局では取り扱っていないので詳しくないのですが、本当に今のウイッグはよくできていると思います。
おしゃれ用のウイッグはそんなに高くなく、数千円からあるそうです。さらさらなボブや色がついているものなど。脱毛症とは知らず、最初は単に「オシャレに敏感な人」というイメージだった方が何人もいます。
医療用のウイッグは高いですが、つけ心地や見た目の自然さがかなり違うそうです。
こちらはオシャレ、という感じより本当に自然で普通。
部分か全体か、既製品かオーダーか、人毛かファイバーか、と色々選べるそうで、値段は数万〜100万近く(!)まで幅があるようです。脱毛症の治療をしている医院ならだいたい取り扱いがあると思います。
脱毛症の方は皮膚が敏感な方も多いので、品質が保証されたものの方が良いかなと思います。
医療用ウイッグでは規格に合格した「m.wig」マークがついたものは品質がよいようです。
医療用ウイッグの補助金が受けられるのは今のところはがん患者の方だけです。
医療用ウィッグに関する JIS を制定
-生活の質(Quality of Life)向上を目指して-
平成27年4月20日 (経済産業省)



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